先日(2023/05/12)のエキスパートパイロット取得コースの講習内容が、ある程度網羅的だったのでまとめてみようと思います。
以降:エキスパートパイロット=EX
講習内容はこんな感じ↓
- ガーグリング(グループフライト) = 数機で一緒に飛ぶ(サーマリング)
- クロスカントリー(XC)フライト = エリア外へのフライト
- 野外ランディング = メインLD以外へのランディング
この3点に関しての理解と実践(事前準備や下調べも含む)の講習です。
あくまでも、EX証を取得するためにコースでの講習なので、各項目の初歩の初歩。
記事の内容もあまり難しい説明はせず、出来る限りシンプルに書きたいと思います。
この記事を読むと、当スクールでの講習内容の一部をご覧いただけます。
EXまで取得したいと考えてる講習生や、EX取得コースに入校するかどうか迷ってる人はぜひご覧ください。
事前準備/下調べ
EX取得コースではそれまでよりもしっかりとした事前準備や下調べが必要となることが多いです。
フライト空域も広がり、XCフライトではエリア外に出ていくことになるので、広い範囲での地形や風のイメージ作りやランディング可能な場所の確認、フライト機器も必須となってきます。
天気予報
今回のような、ある程度良好なコンディションでないと成立しないようなテーマに関しての講習では、前日までに天気予報の確認とそれに伴う予測を立てる事から始めます。
今回は、フライト後に気象データのスクショを集めたので一般的な天気予報などのデータはありませんが、実際にはまず一番分かりやすい基本的な天気予報で天候・風向・風速などを確認しましょう。
それぞれの予報の見方や活用方法の詳細は、別記事にまとめて紹介したいと思いますのでここでは割愛します。
各天気予報サイトと実際の天候を常に比較し、ご自分のフライトエリアにおける有用な天気予報サイトを探してみてください。
地上天気図
(飛んだ後にスクショを撮ったのでこれは実況天気図ですが・・・)まずは地上天気図(予想天気図)で気圧配置と大まかな風を予測。細かく言えば、高層天気図を見て様々な状況を考察する事も大切ですが、今回はあくまでも初歩の初歩。あまり深堀しすぎると嫌になるので基本的な予報の見方を確認しましょう!
速度の遅い移動性高気圧に覆われて晴れ。高気圧の中心は東北を通りすでに太平洋へ。穏やかな南風ベースのコンディションかな。

SCW
天気予報サイト「SCW」(https://supercweather.com/)は”SUPER-CWEATHER”の略で、スーパーコンピュータが予測する高解像度の天気予報を提供するサイトです。
「GPV 気象予報」(http://weather-gpv.info/)が進化して、
GPV気象予報 + 2kmメッシュ(局地モデル) + 雲観測マップ + スマートフォン対応 = SCW
と
なりました。
「GPV」とは
GPVとは気象庁や米国海洋大気局等の気象予測モデルをスーパーコンピュータで計算した予測値を指します。 気象予測モデルには、低解像度で長期間の予測をするモデルや高解像度で短期間予測するモデル、波浪を計算するモデル等があり、GPV気象予報では様々なモデルの予測を提供します。
GPV気象予報 – http://weather-gpv.info/
いろいろな予報を確認できますが、今回は「風向風速」「雲量」の時間ごとの変化を確認しました。
下のアニメーションは、5/12の9:00~14:00の「詳細78」モデルの風予報です。
実際は更新回数の多い「詳細」モデルで予報を確認していますが、スクショを撮ったタイミングの関係上「詳細78」モデルを利用しています。(「詳細」モデルだと5/12の9:00まで遡って表示できなかった)

見難いですが、SCW画面中央の緑の「+」が八方尾根フライトエリアの位置です。
(左下のマップ表示を見ると正確な位置が確認できます)
穏やかな南東風から昼過ぎに強めの北風(バレーウィンド)が吹き込んでくる予報となっています。
次のアニメーションは、5/12の9:00~13:00の「詳細78」モデルの雲量予報です。
風予報と同様の理由で「詳細78」モデルになっています。

日中は雲量30~70%ほどで不規則に推移する予報なので、実際の日射がどうなるかは微妙。良くなる可能性も悪くなる可能性もアリ。
Windy
今や天気予報を詳細にチェックする人なら誰でも知ってる「Windy」。
当初はWindytyという名称だったと思いますが、2017年にWindyに改名したようです。
無料(有料プランあり)で十分に実用的な様々なデータを直感的に分かりやすく、アニメーションなどを使って可視化してくれています。
時間を指定して、高度毎の風向風速を表示したり、雲量を表示したり、等圧線を重ねたり、気温を表示したり、ポイント天気予報や用途別天気予報・・・。
ここでは、5/12 11:00の800hPa(2,000m)の風情報を確認しながら、skew-Tを表示させています。
時間のインジケーターを変更する(表示時間をずらす)とskew-Tも連動してくれるので変化を確認しやすいです。

ここでもやはり高層は湿度が高く、数値上は湿数(気温と露店温度の差)がゼロの層があります。
中層および下層の空気は乾燥しているので、サーマルソアリングの際に雲底を気にすることはなくブルーサーマルとなりそうです。
気温減率と風の変化は2,000m(800hPa)付近が注目点。
上空の西風が強め。1,500mではほぼ静穏、2,000mで西風1m/s、3,000mで西風7m/sの予報。
この2,000mの天井を下層の熱がどの程度押し上げてくれるのか、その時に上空の西風がどう影響してくるか?というイメージでサーマルトップの変化を探りながらフライトする感じ。
PC大画面の方が見やすいですが、スマホアプリの方が手軽に予報を確認できるので便利です。
公式サイト左上のメニュー内からAndroid・iOSそれぞれのアプリを入手できます。
確認するべき気象データはまだまだありますが、記事のボリュームが大変なことになるので今回はこのくらいにしておきます。
フライト計器(GPS)
XCフライトをおこなう上ではGPS内蔵のフライトコンピューターは必須装備。
自分の現在の高度の把握や対地速度から風向風速を読みとったりするためだけど、今回は目的地(野外ランディング)が決まっているのでその場所にGo To ウェイポイントを設定しておく。
「Go To ウェイポイント」とは、あらかじめある特定の地点の位置情報(ウェイポイントという)を登録しておき、そのポイントを目的地として設定する、ということ。
そうすることでフライト中に目的地に関する情報(距離や予想到達高度など)を表示させることができる。
Go ToはXCフライトの時だけでなく、日常的にメインランディングをGo Toしておいたり、初めて飛ぶエリアのランディングを設定しておくことでフライトの安全管理をするためのツールとして機能します。

今の高さで目的地に向かって飛んでいくと到達できるのか?到達時にどのくらい高度が残りそうか?など。
そのためには、最低限のナビゲーション機能のあるフライトコンピューターが必要だけど、Andoroid端末さえあれば無料の神アプリ「XCTrack」が使える。最近のスマホやタブレットは内蔵GPSの性能が良いので(悪いのもある)、端末単体でも問題なくナビゲーション機能が実用化できてしまう。
XCTrack(Google Playのアプリ)
https://play.google.com/store/apps/details?id=org.xcontest.XCTrack&hl=ja&gl=US&pli=1
フライト機器に関する詳細を説明すると長くなるので、またの機会にまとめます。
ランディング予定場所の確認
一般的にCXフライトの際には、ルート上のランディング場所の候補を事前に確認しておきます。
今回は当スクールでの野外ランディング講習として定番の「ガクモ原」を予定ランディング場所、緊急ランディング場所として白馬パラトピア五竜さんのランディング場の下見をおこないました。
実際に現地に行って、周囲の地形や障害物や人工物、地面の質や形状などを確認しておくことは非常に重要です。
ガクモ原はおよそ100m四方んお広さがあり、非常にランディングしやすいですがいくつかポイントがあります。
- 交通量の多い国道横である
- 南側と西側には電線がある
- 東側には大きめの溝がある
- 足場は悪くないが、草丈が長い範囲が広い
- 地形的に南風か北風のどちらかになりやすい
- バレーウィンドが強くなった時を想定する
- 北風強風時のエスケープとして南側にある休耕田もランディング可能
把握しておくべきポイントをしっかりと頭に入れておき、あとは実際にランディングする際に状況に合わせてポイントを思い出しましょう。

ランディングアプローチのイメージは吹く可能性のあるすべてのパターンを想定しておきます。
今回の場合は、
- 全方向からの弱風(1~2m/s程度)
- 南風と北風のそれぞれが強い場合(3~4m/s程度)
- バレーウィンドが強くなった場合(北風5m/s)
といった感じです。
フライト実践
当日の朝、なんとなく予報通りな雰囲気なのでフライトプランの最終チェックを済ませてテイクオフへ!
10時前にはとりあえず飛んでいられる程度には上昇気流はあるので、パイロットは徐々に飛び始めます。


フライトプラン
12時~13時ころにバレーウィンド(地上付近の北風)が吹いてくる予報だったので、おおまかなフライトプランはこんな感じ↓
講習生カワノ君の集中力の限界点。無理は禁物、安全第一。余裕をもってフライト出来るように。
ガーグリングを意識しながら複数機でソアリングし、2,000m付近にあるであろう気温減率が変化する層でサーマルがどうなるかを感じる。サーマルはどこまで押し上げてくれるのか。上空の西風が強め予報だが実際はどうか?どの程度影響してくるか?
パイロット証では行くことのできない、エキスパートの領域の象徴「八方池」を上から見下ろしてやるぜ!
初めてのエリア(地形)、だけどホームエリアのすぐ隣なので風もサーマルもイメージし易いはず。ここをクリアすれば目的地への野外ランディングは目前!
ポイントを思い出しながら、風を見極めて、目指せハッピーランディング!!
フライト解析(ツール)
結果的には、フライトプラン以上の内容で大成功!
テイクオフ(八方メインTO):10時30分
ランディング(ガクモ原):12時15分
フライト時間:1時間45分
最高高度:2,400m
最南端到達:さのさか(TOから約9km)
僕がフライト分析に使うツールはいくつかありますが、3つ紹介しておきます。
基本的にすべて無料で利用できます。
- Google Earth Pro
- SPORTS TRACK LIVE
- SeeYou
Google Earth Pro

たぶん一番有名、というか汎用性が高いのが「Google Earth Pro」(PC版のGoogle Earth)。
手元にフライトログがIGCファイルしかない場合は、GpsDumpなどの変換ツールでKMLに変換するとGoogle Earthでフライトの軌跡が表示できます。
3Dで軌跡を確認することができるので、じっくりと見直すことができます。
表示方法もいろいろとアレンジできるので、ぜひ触ってみてください。
Google Earth
https://www.google.com/earth/about/
SPORTS TRACK LIVE
IGC、KML、GPXなどの形式のファイルを読み込ませるだけですぐに3Dアニメーションを作ってくれる便利なサイト「SPORTS TRACK LIVE」。
無料枠でも問題なく使える(有料プランへの催促で連続再生が制限されることくらい)。
SPORTS TRACK LIVE
https://www.sportstracklive.com/ja
少し前まではayvriという同じく3Dアニメーションを爆速で作ってくれる無料サイトがあったのですが、残念ながらサービスを終了してしまいました。きっと多くのayvriロスのユーザー達が代わりを探していると思いますが、今のところSPORTS TRACK LIVEを使わせてもらっています。
ほんとうにこの手のエンジニアの方々には感謝しかない。
複数人のフライトを同時再生できて、再生速度やアングルを調整しながら振り返りができるのでめっちゃ便利で、生徒にも伝えやすい。何より、3Dの描写クオリティーが高くて初級者でも実際のフライトがイメージし易い。

SeeYou
グライダー・パラグライダー・ハンググライダー向けのフライト機器メーカーのNaviterが出しているSeeYouというソフト。このソフトはナビゲーションアプリやフライトログブックツール、気象データなどと連携させる用のサブスクリプションがあります。(買ったことないので詳細は分かりません・・・)
フライトログを再生(2D/3D)したり、その軌跡を上昇速度で色付けしてくれたり、特徴的な機能も盛りだくさん。
SeeYou
https://naviter.com/seeyou-makes-you-a-better-pilot/

こんな感じで様々なツールを駆使して、できるだけ分かりやすく具体的にフライトを解析していきます。
フライトの振り返り
下記のフライト概要を把握してからフライトアニメーションをみると状況が少し見えてくるので面白いかも!?
先行してテイクオフしたパイロット達をダミーにしながらテイクオフのタイミングを見計らいます。高度はとれないながらもしっかりと浮いてはいられる感じになってきたので10時半にテイクオフ。
しかし、なかなかテイクオフレベルを突破できるサーマルにあたらず5機ほどでウロウロ。5分ほどたってようやくヨシト(僕)がヒット。
一斉に全員が集まり、ガーグルが形成されます。うまく輪に入れなかったカワノ君もヨシトとは別の流れのサーマルに単独で上手く乗り、結果オーライ。いきなりの5機でのガーグリングはちょっと難しかったですね。
1,900m弱まで上げてそのまま展望尾根に取りつく定番ルート。
ここもまだ1,900mが天井と判断してヨシトは南尾根へ移動。その直後にカワノ君は八方池山荘付近で良好なサーマルゲットで2,000mまで上昇。
南尾根に先行したヨシトはイメージ通りに強いサーマルをとらえて、2,100m、そして2,250m。しかし、そのままダイレクトに八方池には届かない高さ。

そのころ、八方池山荘周辺まで追いついてきたパイロット達がいい感じで上げ始めていたので、戻って合流。
コンディションが整ってきたようで、2,400m弱まで上昇。ここでも3機でのガーグリング実践ができました。

この時点で50分ほど経っていたので、だいたいのサーマルトップを感じたら長居はせずに八方池へ!八方池を300mほど上から見下ろして、一つ目標クリア!
いよいよ八方尾根エリアを飛び出て、五竜方面へ移動開始です。
2,250mで八方池を離脱して、五竜エリアのサーマルポイントに到達したのは1,850m。
ちょっとしたルートや機体性能の差でカワノ君と100mほど高度差がついてしまったので、スパイラルで高度を合わせ、いざ五竜エリア攻略!
といきたいところでしたが、思ったよりも渋いコンディションに五竜初めてのカワノ君はじり貧モードに入ってきたので、高さがある(1,600m)うちに月夜棚へ移動の判断。
思ったよりも中層の南風が吹いていて、月夜棚のリーサイドを突破するのに尾根越えアクセルワークの実践ミッションも発動。
とはいえ、それほど難しいコンディションではないので、ヨシトは1,350m、カワノ君は1,250mで月夜棚のサーマルポイントに到達。
もちろん月夜棚も初のカワノ君は、無線でのポイントアドバイスをしっかりと自分なりに実践し、見事1,700m弱まで復活!そのまま楽しんでもらってる間にヨシトはさのさかリターン。問題なさそうだったのでカワノ君も初さのさかへGo!
初XC・初さのさかおめでとう!と思ったら、「さのさかの麓のレストハウス」をGetしてきたらしい。。。
ここまで行く予定じゃなかったから、さのさかウェイポイントは説明してなかった、、、ごめんね(笑)
まぁ、さのさかには違いないから、おめでとう!
ここで時間は12時過ぎ。
まだバレーウィンドは入っていない様子だったので、穏やかな南風で余裕の野外ランディング!
フライト時間は1時間45分で、さのさかリターン分がおまけな感じでこれまたほぼ予定通り。
大満足でめちゃめちゃ充実したフライト!
しかも、ランディング直後にたまたま通りかかったオオマチスカイサポートの校長小宮山さんがアイスの差し入れを持って登場のサプライズ!!
さすが、大ベテランパイロットはフライヤーの気持ちがわかってらっしゃる!
初めての2,000mオーバー、初めての八方池、初めてのXC、初めての野外ランディング。
疲れ切った脳みそと体に、甘くて冷たいアイスが染みわたる~。
(後半、全然写真撮ってなかった・・・反省と後悔)
まとめ
いかがだったでしょうか?
エキスパートパイロット取得コースでは、準備段階から当日のフライトまで、インストラクターとのタイミングが合えばこんな感じで一緒にフライトしながら空中でリアルタイムにレクチャーさせていただきます。
すでにパイロット証を持っている方もパイロット証を目指している方も、ぜひエキスパートパイロット証を目指しましょう!
パラグライダーの楽しみ方が何倍にも大きくなること間違いなしです!!
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